「80年代風」というワードは、特に『BURRN!』誌に掲載されるタイプのHR/HMを語る際にはよく使用されるものである。
へヴィ・メタルという音楽自体、基本的には80年代に成立したジャンルなので、同誌が使う際には基本的に「古き良き時代」というニュアンスで使われることが多い。
ただ、実際に「80年代風な音」と言われた時にイメージする音というのは、人によって微妙に異なるのではないかと思われる。
冷静に考えれば、IRON MAIDENだって、BON JOVIだって、SLAYERだって80年代に登場・活躍したバンドなのである。さすがにSLAYERの音を「80年代っぽい」と形容する人は見たことがないものの、「80年代っぽい」と言われてイメージする音が人によって異なっていたとしても無理はない。
とはいえ、実際には(少なくとも80年代に物心がついていた以上の世代の人間は)「ポップでキャッチーなメロディ」とか、「デジタル・シンセサイザーの音色」「エコーの効いたゴージャスなサウンド」といった要素をして「80年代っぽい」と感覚的に判断していると思うし、そういう意味では上記に挙げたバンドで該当するのはBON JOVIだけだと言えるだろう(一部IRON MAIDENも該当するが)。
私自身がHR/HMを聴き始めたのは90年代に入ってからなので、80年代を原体験しているとは言えないのだが、80年代の前半には物心がついていたので、テレビや街角で流れている音楽を通して「80年代の音楽」に触れていたし、自分の音楽的な嗜好のベースを作ったのはこの時期の音楽だと感じている。
というか、80年代というのは私の小学校時代とほぼ重なっており、その時期は私にとって日々起こる何もかもが新鮮で、中学校や高校時代のような受験のプレッシャーもなく、イノセントに毎日が楽しかった記憶の時代だったりします(かなり美化されていますが)。
そして当時の日本はいわゆるバブル景気の時期で、(今思い返すと)世の中に活気があったし、両親の仕事や健康にも何の問題もない、「全てが上手くいっている。これからもきっと上手くいく」と思える幸福な時代でした。
実際にはそれは色々な意味で錯覚だったわけですが、そういう客観的な事実とは関係なく、私にとって「80年代のサウンド」というのは、「楽しかった時代の幸福な感覚」、いわばポルトガル語でいう「サウダージ」(温かい家庭や両親に守られ、無邪気に楽しい日々を過ごせた過去の自分への郷愁や、大人に成長した事でもう得られない懐かしい感情を意味する言葉―Wikipediaより)を呼び起こすものなのです。
と、私以外の人には心底どうでもいい80年代サウンドへの思い入れを語ってきたわけですが、そんな「80年代サウンド」を理解する上では、HR/HMだけを聴いていると、本質が見えてこない部分があります。
まあ別に本質などわかっていなくても何ひとつ困らないのですが、私のように「80年代サウンド」に惹かれる人間にとっては、当時流行っていたポップ・ミュージックの全てに「ときめきのエッセンス」が感じられるわけです。
80年代タイプのHR/HMを中心に扱っている当サイト/ブログの読者であれば、私と同じニュアンスではないにせよ、同じように80年代のポップ・ミュージックにも思い入れのある方も多いのではないかと思っているのですが、そんな方に最高のコンピレーション・アルバムが本日発売になりました。
まるで通販番組みたいな流れですが(笑)、私は別にレコード会社からお金をもらっているわけではなく(Amazonへのアフィリエイトリンクは貼っていますが)、純粋にその選曲に感激したのでこうしてわざわざ長文を書こうと思ったのです。
そのコンピレーション・アルバムのタイトルは「ナンバーワン80s PERFECTヒッツ」。
3枚組で、それぞれ「全米・全英でNo.1を獲得した大ヒット曲」「日本で大ヒットした洋楽曲」「その時代の映画主題歌として広く知られた曲」というテーマで分類されてまとめられており、この編集が素晴らしい。
海外ではそれほどでもなくても、日本では大ヒットという「BIG IN JAPAN」現象はこの頃から(いや、ベンチャーズの昔からですが)明確に存在したので、この整理の仕方こそが、当時日本にいた洋楽ファンにとって「流行った曲」を網羅できるベストな方法なのではないでしょうか。
以下、楽曲リストをそのまま
ソニーミュージックの公式サイト から転載したもの。
▼DISC1:GLOBAL HITS<全米&全英両シングル・チャート1位獲得曲>
01. ビリー・ジーン|マイケル・ジャクソン
02. ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ|ワム!
03. ギヴ・ユー・アップ|リック・アストリー
04. へヴン・オン・アース|べリンダ・カーライル
05. カーマは気まぐれ|カルチャー・クラブ
06. すてきなSomebody|ホイットニー・ヒューストン
07. ザ・リフレックス|デュラン・デュラン
08. アイ・オブ・ザ・タイガー|サバイバー
09. ハロー(出逢いの扉)|ライオネル・リッチー
10. 愛の残り火 |ヒューマン・リーグ
11. コール・ミー|ブロンディ
12. アイ・ウォナ・ノウ|フォリナー
13. レッド・レッド・ワイン|UB40
14. ダウン・アンダー|メン・アット・ワーク
15. カモン・アイリーン|ディキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ
16. 愛のかげり|ボニー・タイラー
17. ロック・ミー・アマデウス|ファルコ
18. ふたりの世界|ティファニー
19. 胸いっぱいの愛|バングルス
▼DISC2:JAPAN HITS<オリコン・シングル・チャート(洋楽部門)1位獲得曲)>
01. ダンシング・シスター|ノーランズ
02. 君の瞳に恋してる|ボーイズ・タウン・ギャング
03. BAD|マイケル・ジャクソン
04. ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン|シンディ・ローパー
05. アイ・ライク・ショパン|ガゼボ
06. オーバーナイト・サクセス|テリー・デサリオ
07. ギヴ・ミー・アップ|マイケル・フォーチュナティ
08. サイキック・マジック|G.I.オレンジ
09. ファイナル・カウントダウン|ヨーロッパ
10. 愛は吐息のように~トップガン・愛のテーマ|ベルリン
11. ラッキー・ラヴ|カイリー・ミノーグ
12. エリー・マイ・ラヴ~いとしのエリー|レイ・チャールズ
13. ロックバルーンは99|ネーナ
14. ダンシング・ヒーロー(素敵なハイエナジー・ボーイ)|アンジー・ゴールド
15. カサブランカ|バーティ・ヒギンス
16. ステイ・ウィズ・ミー|エイス・ワンダー
17. トイ・ボーイ |シニータ
18. ニューヨーク・シティ・セレナーデ|クリストファー・クロス
▼DISC3:MOVIE HITS<80年代大ヒット映画の主題歌>
01. デンジャー・ゾーン|ケニー・ロギンス
02. ネバーエンディング・ストーリーのテーマ|リマール
03. グーニーズはグッド・イナフ|シンディ・ローパー
04. 愛はとまらない|スターシップ
05. 愛と青春の旅だち|ジョー・コッカー&ジェニファー・ウォーンズ
06. ココモ|ビーチ・ボーイズ
07. セント・エルモス・ファイアー(マン・イン・モーション)|ジョン・パー
08. ゴーストバスターズ|レイ・パーカー,Jr.
09. フラッシュダンス…ホワット・ア・フィーリング|アイリーン・キャラ
10. ステイ・ウィズ・ミー|ピーター・セテラ
11. タイム・オブ・マイ・ライフ|ビル・メドレー&ジェニファー・ウォーンズ
12. スタンド・バイ・ミー|ベン・E.キング
13. べスト・キッド~ザ・モーメント・オブ・トゥルース|サバイバー
14. ポリス・ストーリーのテーマ|ジャッキー・チェン
15. コブラのテーマ~アメリカズ・サンズ|ジョン・キャファティー&ザ・ビーバー・ブラウン・バンド
16. ラ・バンバ|ロス・ロボス
17. フットルース~メイン・テーマ|ケニー・ロギンス
18. イン・ディス・カントリー~明日への勝利|ロビン・ザンダー
19. バーニング・ハート|サバイバー
20. ランボー 誓いのテーマ|ビル・メドレー
わかる人にはわかると思いますが、これは強力なラインナップですよ。今まで数多くの80’Sオムニバスを購入してきた私にしてみれば、最初からこれを出してくれ、と言いたくなるまさに決定盤。
まあ、よく見てみるとマドンナ、プリンス、ボン・ジョヴィ、U2という、入っていてもおかしくない、というか入っているべきビッグ・ネームの曲が欠けているのですが、個人的な思い入れを抜きにして、客観的には入っているべき楽曲はかなり網羅的に押さえられているのではないかと思います。
いや、ポリスの「見つめていたい」は外して欲しくなかったかな…。まあいい。
HR/HM系の音楽は多くありませんが(というか明確に該当するのはEUROPEのアレくらいで、フォリナーとかサバイバーなんてのは『BURRN!』に載ってこそいたもののHR/HMとは言い難いですね)、「80年代」というワードに心ときめく方はぜひ。
でも実際の所どうなんですかね。私はある意味後追いなのでこうして素直に「良いなあ」と思えるわけですが、本当にリアルタイムに80年代からメタルにどっぷりだった、という人にとっては「ケッ、こちとらこんな軟弱な音楽聴いてらんねーからメタル聴いてたんだよ!」って感覚なのでしょうか。
でも、そんな人も今聴いたら素直に懐かしいと思えたりするのではないでしょうか。
※本コンピレーション収録曲の中でも、特に個人的に「80年代っぽい」と感じる2曲
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