『ビッグ・イン・ジャパンの時代』感想

4月15日にシンコーミュージックから発売された『ビッグ・イン・ジャパンの時代』を読みました。
リアルタイムで経験した人、および「メタル史」に詳しい人はご存知の通り、80年代にワールドワイドで大人気だったハードロック/ヘヴィ・メタルは、90年代には反動とも言うべき低迷を迎えます。
しかし、ここ日本では80年代からのハードロック/ヘヴィ・メタル人気が継続し、欧米ではメジャー・レーベルとの契約を失ったバンド、そもそも契約できないバンドがここ日本限定でCDが売れていた、という状況がありました。
そういった「日本限定の人気バンド」は次第に「ビッグ・イン・ジャパン」と呼ばれるようになり、本書はそういった現象とアーティストにフォーカスした内容となっています。
ただ、そのテーマについて深く掘り下げているというものではなく、『BURRN!』誌の広瀬編集長の見解と思い出話を、同誌編集部員の幅さんがインタビュー形式で聞き出して文字起こしするという、近年の『BURRN!』誌の特集記事の作り方に近いもので、より少ない編集部員でより多くのコンテンツを作らないとビジネスとして成り立たない状況ならではの省エネな作られ方。
長年の『BURRN!』誌の読者にとってはどこかで読んだような、なんとなく知っている話と、それについての今だから言える裏話で構成されており、これをノスタルジーが刺激されて良い、と感じるかどうかは『BURRN!』誌に対する愛着次第でしょう。
リアルタイムを経験していない人にとっては会社の先輩の過去の武勇伝を聞かされているような感じで「へーそーなんすかーすごかったんすねー」みたいな感想しか出てこないように思いますが、恐らくこの本は40代未満の人が読むことは想定されていないと思われます。
本書では「ビッグ・イン・ジャパン」という現象が起きたのは、「日本人の考える“いい曲”とアメリカ人の考える“いい曲”の感覚が違う」という感性の違いの他、日本における「洋楽」の受容のされ方が特殊だから、と結論付けており、それは実際その通りで、「日本で受ける洋楽」というのが「アーティストのキャラ立ち」を求められる、一種のアイドル性に依存するものだからなのだと思います。
90年代のHR/HMリスナーであればそのやたらと存在感のあるCD帯デザインと、むやみに大仰でポエミーな帯タタキのコピーで印象に残っているであろうゼロ・コーポレーションが、なぜ数年間とはいえ急激に日本のHR/HMマーケットで存在感を強めることができたのか、とか、HAREM SCAREMを売ったワーナーの担当ディレクターはかのKUNI氏だった、なんてそういう日本のレコード会社の「売る努力」が「ビッグ・イン・ジャパン」を成立させていた、というようなビジネスっぽい話は個人的に興味深く読めました。
本書で指摘されているBON JOVIの"THESE DAYS"は一応アメリカでも100万枚売れているものの、140万枚売れた日本の方がセールスが多かった、という事実は、BON JOVIが「ビッグ・イン・ジャパン」かどうかはともかくとして凄い時代だったんだな、ということをあらためて気付かされます。
私自身はこれら「ビッグ・イン・ジャパン」なアーティストたちがいたからこそ、こんなブログを書き続けるほどHR/HMにのめり込んだ、「ビッグ・イン・ジャパン世代」ド真ん中のリスナーですし、そういう90年代にしぶとくHR/HMにお金を投じ続けた日本のファンがいたからこそ21世紀まで生き残ることができたアーティストも少なからずいると思いますので、そういう意味では世界的に見ても意外とバカにできない現象だったと思います。
今思えば、海外のアーティストが「日本人向け」な作品を作ってくれた、非常に贅沢な時代でしたね、90年代は。ある意味、80年代以上に(当時の)日本人の感性にフィットするアルバムが多数リリースされていたと思います。
私が『BURRN!』誌の編集方針に疑問を抱きつつ、今なお買い続けているのは、こうした「ビッグ・イン・ジャパン」な素晴らしいアーティストたちとの出会いを作ってくれたことに対する恩返し、という一面もありますね(多分)。
▼「ビッグ・イン・ジャパン」の象徴とも言うべき、その名もMR.BIG。私も来日公演観に行きました。
▼カバー曲にもかかわらず『BURRN!』誌の年間ベスト・チューンに選ばれていた、「ビッグヒット・イン・ジャパン」。
▼これもまた完全に日本だけの一発屋でした。
▼この曲にMVがあったとは。というかこんなイントロが長い曲をMVにするとは。
▼本書ではイングヴェイの項で少し触れられていただけですが、彼らもまた相当なビッグ・インジャパンでした。
▼この曲をMV曲にしていた辺り、王者もまだ80年代を引きずっていたのだと思います。レコード会社の意向かもですが。
▼Voが低音だったので個人的には琴線に触れませんでしたが、『BURRN!』誌の高評価に釣られて聴いていました。
▼彼らは日本では「和田誠氏が育てたバンド」という印象でしたね。
▼彼(ら)もまた完全な「ビッグ・イン・ジャパン」だったと思いますが、本書ではなぜか1ミリも言及されず。
▼個人的にはビッグ・イン・ジャパンの最高峰。彼らが3rdを出せただけでビッグ・イン・ジャパン現象の意義はある。
▼アメリカ市場を意識した前作が不評だったので、日本向けに作風を軌道修正したアルバムの曲。
▼元祖ビッグ・イン・ジャパンとも言うべき彼らですが、なぜか本書では言及なし。
▼このバンドも完全なる「ビッグ・イン・ジャパン」でしたね。デビュー作のタイトル・トラックは衝撃でした。
▼ヨハン・リーヴァ在籍時の彼らは最後のビッグ・イン・ジャパンでしょうか。
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