fc2ブログ

NOVERIA "AEQUILIBRIUM"(2019)アルバム・レビュー

noveria03.jpg

前エントリーで新作"THE GATES OF THE UNDERWORLD"を紹介したNOVERIAの、その前作にあたるサード・アルバム。

日本盤がリリースされなかったこともあり、リリース当時にはスルーしていた作品ですが、リリースからかなり時間が経ったタイミングでYouTubeに本作収録の"Stronger Than Before"をリコメンドされ、そのカッコよさにノックアウトされてアルバム全体をチェックしました。

そしてアルバムを聴いての感想としては、リアルタイムで聴いていたら年間ベスト10に選出してたな、というものでした。

基本的にはメンバーが在籍しているDGM直系のプログレッシヴ・パワー・メタルで、その点では最新作と変わらないのですが、よりプログレッシヴな要素やシンフォニックな要素が増している最新作に比べるとよりコンパクトかつソリッドな作風で、「10分超えの大作」みたいな形容にワクワクよりもウンザリ感を感じてしまうようなメタラー諸兄にとっては本作の方が取っつきやすいかも。

アップテンポからミドルテンポまで、どの曲も曲構成がプログレッシヴ系にありがちなテクニカル・オナニーではなく、ちゃんとドラマティックな雰囲気を醸し出してくれる辺りがツボなのですが、アルバム全体もエクストリームと言っていいほどにアグレッシヴな#1 "Waves"で幕を開け、内省的な深みのあるバラード#11 "Darkest Days"で幕を閉じるアルバム構成自体もドラマティックでポイント高いです。

ヘヴィなアグレッションと、テクニカルな要素と、叙情的なメロディのコンビネーションは、何故この時点で日本盤が出なかったのか理解に苦しむハイレベルさですね。いやまあDGMですらそれほど売れているとは思えないのでやむを得ないと言えばやむを得ないのですが。

最新作を気に入った方はぜひ本作もさかのぼって聴いてもらいたい、充実のアルバムです。【87点】





スポンサーサイト



AMUSIE "HEAVY METAL DOCTORS"アルバム・レビュー

amusie01.jpg

2019年に行われたCIRCUS MAXIMUSの来日公演でオープニング・アクトを務めたこともある名古屋出身のメロディック・パワー・メタル・バンド、AMUSIEのデビュー・アルバム(厳密にいうと2014年に自主制作でアルバム制作をしたことがあるそうですが)。

このバンドの特色はメンバーが全員現役の医師であるということで、ベースのマノ氏、ギターのキノシタ氏、ドラムのイトウ氏は産婦人科医、ヴォーカルのイヌカイ氏は耳鼻咽頭科医とのこと。

本作はルビコン・ミュージックからのリリースということで、実質自主制作に毛が生えたようなものと思われますが、もしこれが大手レコード会社からリリースされるということだったら「現役医師によるヘビメタ・バンドがデビュー、低迷する国内メタル・シーンにメスを入れる!」みたいなPR記事がどこかのスポーツ紙に出たかもしれません。

結成は1995年、愛知医科大学に在学していたマノ氏とキノシタ氏が後輩のドラマーと結成していたSYNDROME Xというバンドまで遡ることができるが、AMUSIEとしてのバンド結成は、若手医師としての最も多忙な期間を過ぎ、イトウ氏、イヌカイ氏という現在のメンバーと出会った2011年のことだそう。

そして先述の通り2014年に自主制作でアルバムを制作しており、本作の曲作りも2015年には開始していたそう。

それがリリースされるのが2023年という8年という期間を要しているのは、やはり医者という多忙な仕事に従事しているからなのでしょう。私の従姉妹も医者で、診療の傍らしょっちゅう海外の学会などにも出席していてメチャクチャ忙しそうなのでそれは理解できます。むしろよくアルバムをリリースできるレベルで音楽活動ができるものだと感心してしまいますね。

音楽性は前述の通りメロディック・パワー・メタルということになると思いますが、「典型的」なスピード・チューンは少なく、全9曲というそれほど多くない曲数の中にキャッチーな曲やバラードが収められ、一方で#3 "I.C.T."などは明らかにJUDAS PRIESTの"Painkiller"のオマージュと思われるヘヴィな曲と、この手のジャンルの幅でメリハリに富んだバラエティが用意されています(I.C.T.というのは"Incection Control Team"の略で、病院内の感染管理チームのことだそうです)。

#5 "Way Of My Life"や#9 "Lost Senses"といったやや長尺のドラマティックな展開を持つ曲からはプログレッシヴ・メタルからの影響も明確に感じられ、学生時代のバンド名がSYNDROME Xだったというのも頷ける(笑)見事な構成力を披露しています。

日本のバンドのネックになりがちなヴォーカルも、耳鼻科医として高音発声についての研究も行なっているというイヌカイ氏の歌声は、こうしてアルバムで聴く限り破綻もなく、安心して聴けるレベルに達しているのもポイントが高いですね。

ミックスとマスタリングには90年代末から00年代初頭の欧州パワー・メタル・ブームの陰の立役者的な存在だったプロデューサー/エンジニアのフレドリック・ノルドストロームを起用し、音質の面でも安心して聴けるレベルに達しているのは診療報酬の賜物でしょうか(笑)。

イェンス・ボグレンという選択肢もあった中でフレドリック・ノルドストロームを選択しているという辺りにオールド・ファッションなメタル・サウンドへのこだわりが感じられて好感が持てますね。

欧米の一線級のバンドと同等のクオリティがあるかと問われるとさすがにそうは言えないかもしれませんが、この手の音楽が好きな人であればそれほどB級感を感じることなく聴けるレベルに達しており、これを医師という多忙な業務の傍ら、ある意味「趣味」で実現しているというのは驚異的だと思います。

(いや、欧米のこの手のバンドのメンバーの多くも「昼の仕事」は持っていることが多いですが、ある程度コンスタントにアルバムをリリースしツアーも行っているバンドの場合、「昼の仕事」はあくまでバンドをやるために必要な生活費や資金を稼ぐための「手段」でしかなく、このバンドのように明らかな「本業」ではないので、その場合は音楽活動を「趣味」とするのは失礼でしょう)

メタル界隈でドクターというとクレイジーなドクターだったり、フィールグッドなクスリを処方してくれるドクターだったり、モンスターを作るスティーン博士だったり、ロクでもない人たちばかりですが(笑)、このヘヴィ・メタル・ドクターたちはかなり真面目な人たちであろうことを感じさせる良心的な作品だと思います。

どうでもいいですが、#6 "Thanks For Usual Days"の冒頭のリード・ギターのメロディがRAPHAELの「花咲く命ある限り」のサビメロっぽいのは偶然なのでしょうか、それともオマージュなのでしょうか。





LOVEBITES "JUDGEMENT DAY" アルバム・レビュー

lovebites04.jpg

日本の女性メタル・バンド、LOVEBITESの通算4作目となるフル・アルバム。

前作“ELECTRIC PENTAGRAM”(2020)発表後の2021年8月に、バンドの創設メンバーだったベーシストのmihoが脱退、活動を休止していたが、昨年2022年に新ベーシストfamiをオーディションを経て加入させ制作されたのが本作。

このバンドのライブ映像などを観ると、一番メタラー然とした存在感を放っていたのがmihoだっただけに、果たしてLOVEBITESがこれまで同様のピュア・メタル路線を貫いてくれるのか、いささか危惧していた。

しかし結果的にそれは完全に杞憂で、これまで同様、むしろ海外ではほとんど見かけなくなってしまったほどにピュアなパワー・メタルが展開されており、完全復活を印象付ける作品に仕上がっている。

彼女らの「復活宣言」であろうと思われるオープニングの#1 "We Are The Resurrection"から肩に力入り過ぎではと思ってしまうほどアグレッシブなファスト・チューンだが、続く先行MVが公開されていたタイトル曲#2 "Judgement Day"もスピード・ナンバー、そして#3 "The Spirit Lives On"も疾走曲とダメ押しされ、個人的にはもうこの時点で兜を脱ぎました。

その後もメイデン風の#4"Wicked Witch"、80年代テイストのある#7"My Orion"、スラッシーなアグレッションを示す#9"Dissonance"などフックのある楽曲を揃えつつ、#6"Victim Of Time"、#8"Lost In The Garden"、#10"Soldier Stands Solitarily"といった、日本人ならではのメロディ・センスを備えたパワー・メタル・チューンが目白押し。

前作でちょっと感じた冗長さも改善され、楽曲レベルでも、アルバム全体でも緊張感が持続する強力なアルバムに仕上がっており、作品トータルでは最高傑作なのではないか。

オリコンチャートでも週間5位と、ここ数年の日本のメタル作品としては最高レベルの成功を収めており、あらためて彼女らの実力と人気が他のガールズ・メタル・バンドとは一線を画すものであることを証明しています。

個人的には非常に満足度の高いアルバムで喜ばしい限りなのですが、海外での活動を強く意識していると思われる彼女たちがなぜ現在海外ではダウントレンドのパワー・メタルをやり続けてくれるのかがむしろ謎ですね(笑)。【88点】





Lonesome_Blue "SECOND TO NONE"(2022)アルバム・レビュー

lonsomeblue01.jpg

年初なので(?)、前エントリーのLORNA SHOREに続き、このブログ的には変わり種なものをもうひとつ。

声優としても活躍している野村麻衣子(Vo)と広瀬ゆうき(B)、DESTROSEやDisqualiaといったガールズ・メタル・バンドでの活動歴があり、ソロでも活動する成美(G)、スタジオ/ツアーサポートドラマーとして活動し、真空ホロウというバンドのメンバーでもあるMIZUKI(Dr)によるガールズ・ロック・バンド。

本作は昨年6月にリリースされたデビューEPに続く、ファースト・フル・アルバムになります。

全体的にはHR/HM色の強いポップ・ロック・バンドという感じで、B'zがHR/HMであると感じられる感性の方であればHR/HMと言い切ってしまっていいサウンドだと思います。

声優がヴォーカルというとアニソン・バンドのようですが、アニメの主題歌に起用できそうなキャッチーさはありつつも、声質含め「甘さ」は控えめで、個人的には普通にJ-ROCKとして聴けました。

てか、ヴォーカルはともかく声優がベースって珍しいですね。プレイ的には、やはり元々プロとして活動していた手数の多いドラムのプレイが際立っている印象です。

#5 "Mine"みたいな哀愁歌謡ロックみたいな曲がヴォーカルの声質にハマりがいいような気がしますが、R&Rフィーリングのある曲から軽くラップ風のパートが入るようなモダンな曲、パワー・メタル然とした疾走曲まで、バラエティに富んだ(しかしバラードはない
)楽曲はどれもなかなか高品質。

ちなみにヴォーカルは上智大学中退という英語ができそうな経歴を活かしてか(?)全編英語で、そのせいもあってか海外のメタル・サイトなどでもそれなりに話題に取り上げられている感じで(私がこのバンドを認知したのも海外のメタル・ニュースサイトの見出しでした)、YouTubeのコメント欄なども英語の書き込みが目立ちます。

その辺はLOVEBITESが切り開いた流れなのかなと思いつつ、ちょっと意地悪な見方をすると、海外のメタル・ファンから見たらBABYMETALの亜流的に捉えられるのかもしれません。「メタル×アイドル」とか「メタル×メイド」とか「メタル×声優」のように、メタルとは異質なものの掛け合わせが欧米人にとっては斬新で意外性のある存在に映るのだと思います。

そういうのを「真のメタルとは認めない」という価値観があることは承知していますが、日本のメタルが欧米と差別化していくには、やはりそういうメタルとは異質な要素を掛け合わせていくしかないのではないかという気がします。結局、「真のメタル」路線で欧米に受け容れられた日本のバンドはLOUDNESSという突然変異級の才能を持ち、世界的なメタル・ブームの波に乗ることができたバンドだけだったということを考えると。

ちなみに名前だけ知っていたこのバンドのMVに触れるきっかけになったのは、年末SIGHのレビューを書いた際にMVを確認した際、「SIGHを聴いている方にオススメ」的にYouTubeにリコメンドされたことでした。

YouTubeにとっては同じ「日本のメタル系アーティスト」というカテゴライズだったのだと思いますが、SIGHの川島未来さんなんかはまさにこういうレコード会社に作られたようなバンドをメタルとして認めない筆頭の存在と思われ、AIも人の嗜好を読むことはできても、空気までは読めないんだなと思いました(笑)。





▼デビューEP収録曲で、ヴァイオリニストのAyasaが参加したこの曲、なかなかカッコいいシンフォニック・パワー・メタル・チューンなのですが、やたらとカラフルでファンシーな映像とのギャップが凄いです…。


LORNA SHORE "PAIN REMAINS"(2022)アルバム・レビュー

lornashore04.jpg

私は基本的にメタルに関しては『BURRN!』で紹介されるようなアーティストしかチェックしていないので、近年のワールドワイドなメタルのトレンドには疎いです。

ただ、12月に入ると、色々なWebメディアが年間ベストアルバム的なものを発表し始めるので、そういったリストはチェックし、複数のメディアで高く評価されているようなものはちょっとサブスクやYouTubeで聴いてみる、というのが私のせめてものトレンドに対する向き合いだったりします(要するに完全なる後追いです)。

昨年トレンドとなった作品もいくつかチェックし、その多くは「評価されている理由はなんとなくわかるけど、自分には合わない」というものでしたが、このLORNA SHOREの "PAIN REMAINS"という作品にはちょっと近年のメタル・トレンド作の中ではかなりインパクトを感じたので、このブログでもちょっと取り上げてみることにしました。

その筋では既に有名なようなのであまり説明するのも野暮なのですが、彼らは2009年にアメリカのニュージャージー州で結成されたデスコア(デスメタルにメタルコアのブレイクダウンと取り入れたサウンド)・バンドで、本作を含め4枚のアルバムをリリースしています。

メンバー・チェンジが多く、既にオリジナル・メンバーは残っていないようで、前任ヴォーカリストのガールフレンドに対する虐待による解雇騒動で予定されていた来日公演が中止になるなど紆余曲折を経ているようですが、現ヴォーカリストのウィル・ラモスを迎えて発表した前作EP"...AND I RETURN TO NOTHINGNESS"(2021)収録曲、"To The Hellfire"がリアクション動画などでバイラル・ヒットとなり(Spotyfyのバイラル・チャートで最高4位を記録したそう)、YouTubeでは2022年1月現在で1300万回近い再生数を記録し、一躍注目度を高めたそうです。

その"To The Hellfire"で体現されていたシンフォニック/ブラッケンド・デスコア・サウンドを突き詰めた本作はその筋ではちょっとしたセンセーションを巻き起こしており、こういうシンフォニックなデスコア・サウンドが今ちょっとトレンドになっているとか。

本作がアメリカのビルボードでは150位ながら、ドイツのナショナル・チャートでは6位を記録している、というあたりに、本作が私にインパクトを与えた鍵がありそうで、とにかくシンフォ・アレンジが大仰でドラマティックで欧州的。

私のような素人には、もはやこのシンフォ・アレンジとデスコア・サウンドはそれぞれ単体で別々な曲として成立しているんじゃないかという気がしてしまうのですが(笑)、激烈極まりないデスコア・サウンドと、劇的で叙情的と言ってもいいほどのシンフォニック・アレンジのコンビネーションは、かつて90年代にメロディック・デス・メタルやシンフォニック・ブラック・メタルというジャンルに出会った時の衝撃を思い起こさせられました。

より近いのは読めないバンドロゴが象徴するようにシンフォニック・ブラック・メタルの感触なのですが、私がブラック・メタルを苦手とする最大の要因である甲高い金切り声のようなヴォーカルより、彼らのようなディープなデス・ヴォイスの方が個人的には馴染みやすい(?)ので、その辺も含め、意外なほど楽しめた作品です。

ドラマ性もアグレッションも非常にエクストリームで高密度な音楽なので、個人的には聴くのにそれなりの精神的エネルギーを要するものの、もし私が高校生や大学生の頃だったら、かなりハマったのではないかと思います。デス・メタル要素に耐性があり、シンフォニックなアレンジがお好みの方であれば一聴をお薦めします。

私もそうでしたが、「コア」と名の付く音楽に対する先入観(というか偏見)が粉砕される、強力な一枚だと思います。





以下は三部構成の組曲になっており、その辺もメタル的というかプログレ的というか。なお、第二部は貼り付けてはいますが、ショッキングな内容を含んでいて年齢制限が設けられているため、YouTubeのプラットフォームに飛んでいただく必要があります。