JUDAS PRIEST / FIREPOWER

前作『REDEEMER OF SOULS』がバンド史上最高の全米6位というチャート・アクションを記録したメタル・ゴッド、JUDAS PRIESTの通算18作目となるアルバム。
本作もチャート・アクションは過去最高に好調で、全米チャートは前作を上回る5位を記録し、初のTOP5入り、そして彼らの母国であるイギリスでも5位と、1980年の『BRITISH STEEL』以来38年ぶり(!)となるTOP10入りを果たしている。
そう、JUDAS PRIESTはメタル・ゴッドなどと、メタル・ファンの間では持ち上げられつつ、1980年代のメタル全盛期でさえ、チャート成績的には10位台から30位台程度、いわゆるTOP40クラスの「中堅」だった。
そういう意味で、アメリカはともかく母国イギリスではIRON MAIDENの人気に及ばなかったし、もちろんアメリカや世界的に見るとMETALLICAの圧倒的な人気には比べるべくもない商業的成功規模である。
しかし、JUDAS PRIESTが「メタル・ゴッド」である所以は、ヘヴィ・メタルという音楽のスタイルとイメージのオリジネイターであるという点と、NWOBHMや、LAメタル勃興前のアメリカに刺激を与えたという歴史的な功績にあり、商業的にトップ・バンドであったということが理由ではない。
そもそも音楽、特にアルバムにお金を払うという文化がすっかり廃れた現代においては、「アルバム」という単位にこだわる世代のファンを抱えているベテランが相対的に有利であり、ましてや彼らのようにバンドを「神」と崇める忠実なファンがついていればなおのことである。
そして現代においては「JUDAS PRIESTのアルバムを買う」というコトは、単なる購買・所有以上の意味がある。「JUDAS PRIESTのアルバムを買った」ということをSNSでシェアすれば、それは己がメタラーであるということを宣言したことになるのだ。
「自分はこんな人だ」ということを発信したい人間で満ちている現代において、JUDAS PRIESTというのはアイデンティティの表明として「わかりやすい」ツールなのである。記号性を持つことは重要である。
いきなり話が逸れたが、再結成後のJUDAS PRIESTのアルバムをそれほど良いと思っていない(悪くはないが)私としては、今の彼らに大して期待はしていなかった。
このアルバムの売れないご時世、もう新作など作らずに、体力の許す範囲でライブをやって、コアファン向けの過去作品のリイシューやマーチャンダイズで老後の生活費を稼いでくれればいいんじゃないかな、くらいに思っていた。
しかし、新作のタイトルが『FIREPOWER』と聞いて、ちょっと期待感が生まれた。なんかキャッチーじゃないですか、響きが。力があるというか。
ノリとしては『PAINKILLER』とか、『THUNDERSTEEL』に近いというか。
まあ直訳すると「火力」でなんかマヌケですが、『PAINKILLER』だって和訳したら「痛み止め」ですからね(笑)。
いや、経験則として、タイトルとかアートワークが優れている作品は内容も良いことが多くてですね。そういう意味で期待できるな、と。
そして実際、1回通しで聴いた印象として、ロブ復帰後で一番いいんじゃないの、と感じ、複数回聴き込んでみてもその印象は揺るがなかった。
いや、別にリッパー時代が良かったわけではないから実質「ロブ脱退後」で一番か。となると『PAINKILLER』以来28年ぶりの良作ということになる。
まず冒頭を飾るタイトル曲の「Firepower」が、曲名から期待される通りのエネルギーを感じられるソリッドなメタル・チューンだし、続く「Lightning Strike」も、これまた典型的と言ってもいい、ミドル・テンポのヘヴィ・メタルのお手本みたいな曲。こういうツカミの良さはメタルのアルバムにおいては重要。これで既に好印象。
アルバム折り返し時点の7曲目で序曲的なインストを挟んで、本作のハイライトというべきドラマティックな#8「Rising From Ruins」(これは久々の名曲ではないか)につながるあたりには、A面・B面で前半後半が分かれていたアナログ時代のバンドの意識が感じられる。そして結果としてそれによってアルバムの中だるみが回避されているという面もある。
アルバム全体を見ると、彼らの悪い癖である(?)中途半端なポップさが所々に顔を出していたり、淡泊というか平凡な曲も多いが、全体的にオーセンティックなメタル・リフがザクザクしていて気持ち良く聴けるため、聴き終えての印象は悪くない。
多様化を極めたメタル・シーンにおいてこの音はあまりに「普通」かもしれず、もはやこのバンドの個性はほとんどハイトーン・スクリームを使わなくなってなお、声質自体でメタリックな印象を与えることができるロブ・ハルフォードのヴォーカルだけかもしれない。
しかしJUDAS PRIESTは「基本」なのだから「普通」でいいのだ。むしろ「普通」を徹底してくれる方が彼らの場合物議を醸すまい。そういう意味でファンの期待に応えた、良心的なアルバムだと思う。
K.K.ダウニング(G)の脱退に続き、リーダー格だったグレン・ティプトン(G)もパーキンソン病でツアーを離脱(代役は本作のプロデューサーに名を連ねているアンディ・スニープ)するなど、いよいよ「終わり」が見えてきてしまったJUDAS PRISTだが、本作がラスト・アルバムになったとしても、晩節を汚したと言われることだけはないはず。【84点】
◆本作収録「Lightning Strike」のMV
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