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「リリック・ビデオ」について考える

数日前、私がよく見ているamassというニュースサイトで、DEF LEPPARDの1983年の名曲"Photograph"のリリック・ビデオがYouTubeで公開されたことが報じられていました。

説明するまでもないかと思いますが、リリック・ビデオ(Lyric Video)というのは、ミュージック・ビデオ(MV)の一種で、曲の歌唱に合わせて歌詞が出てくる映像です。

基本的にはMVのような撮影映像などは使わずに、モーショングラフィックスとキネティックタイポグラフィのみで制作されることが多く、簡易版のMVという作りのものが多いですが、実写映像やアニメーション、イラストや写真素材、ストップモーションアニメなどを使って下手なMV顔負けのクリエイティビティが発揮された映像もあります。

さかのぼると1987年に今は亡き故プリンスが"The Sign Of The Times"のMVを歌詞のみの映像で制作して話題を呼んでいたようですが、それはあくまでもプリンスならではの実験的な試みという受け止め方をされたため、後に続く者はありませんでした。

そして時は流れて、PCでの映像制作が容易になった2010年代に入ってから散見されるようになり、2013年頃にはHR/HMの界隈でも一般的になっていた映像制作手法です。

いきなり脱線しますが、上記のamassというサイトは運営元がサイト内に明記されておらず、ひょっとすると個人、ないしは数人の仲間で趣味の延長線上で運営しているのではないかと推察しているのですが、拾ってくる情報がかなりニッチなものが多く、どのようにネタを収集しているのか、サイト/ブログ運営者の端くれとして純粋に興味があります。

そしてようやく本題に入ると、DEF LEPPARDがどういう意図で今更"Photograph"のリリック・ビデオを制作したのかは不明ですが、過去の名曲のリリック・ビデオを作るというのはなかなかいいアイディアだなと思ったのがこの文章を書いているきっかけです。

皆さん恐らくご存知の通り、YouTube上には個人が非合法にアップしている(と思われる)、アルバムのジャケットだけを背景に、単に音楽を聴かせるための映像がゴロゴロ存在しています(だんだん規制が強まってはおり、違法動画を見つけるAIなども駆使しての削除も進んでいるようですが)。

曲によってはそれが数百万回、数千万回再生されていることもあり、私自身もしばしばそういう映像で興味がある音源をチェックすることがあるのであまり偉そうには言えないのですが、それはアーティストにとって本来得ることができるはずだった逸失利益です。YouTubeだってかつては再生回数、現在は再生時間に応じて利益還元されるので。

とはいえ、いかに映像を作るコストがひと昔前と比べて下がったとはいえ、ちゃんとしたMV(かつてはビデオクリップ、もしくはプロモーション・ビデオと呼びましたが、もはや死語のようですね)はそんなにポンポン作れません。

いや、クオリティを問わなければ作れますが、あまりお粗末なものを作るのはバンドのブランド価値を毀損するので、手間に見合った効果を期待するのであればそれなりにちゃんと作る必要があるでしょう。

しかし、これがリリック・ビデオであれば、身内のスタッフにFinal CutやPremiereといった映像編集ソフト、あるいはシンプルなものであればAfteEffectsを使える人がいれば(人件費と編集用PCの減価償却費を除き)限りなく無料に近いコストで(リリック・ビデオとしては)それなりのクオリティの映像を制作することができます。

違法な音源映像と、公式なリリック・ビデオ、同じ曲で両方アップされていれば、普通の人は公式のものを聴くでしょう。一時期海賊版が横行していた中国などでも、もし公式のものが同じ価格で入手できるなら公式のものを買う、とユーザーは言っていたらしいので(なお、近年ではだいぶ中国でも著作権に対する意識が高まっているようです。やっぱり人は衣食足りて礼節を知るということですね)。

持ち歌の多いアーティストであれば、過去の楽曲を全てリリック・ビデオ化するというのは手間の面から言っても非現実的ですし、SpotifyやApple Musicといったサブスクリプションサービスが主流になりつつある昨今、そのサービスと競合してしまう面もあります(再生に対するリターンが同額以上であればアーティスト的には問題ないかもしれませんが)。

ただ、MVのない人気曲、ライブ定番曲などは間違いなく作っておいたほうがいいと思います。

上記違法アップロード動画への対策という意味以外でも、人気曲の動画がオフィシャルにリリースされたとなればそれ自体がパブリシティとなってファンの間では話題になり、SNS等で拡散されたりする効果が期待できます。

また、最近はライブハウスのような小さいライブ会場でも映像を使うことができたりしますが、リリック・ビデオのクリエイティブによってはそういうステージ演出の材料として使うことも可能です(実際使っている事例をしばしば見かけます)。

オーディエンスの立場としても、リリック・ビデオが映されていれば歌詞がわかるので、合唱しやすくなります。この"Photograph"のように英語が全くわからなくても「ふぉーとぐら~」とコーラスできるような曲であればいざ知らず、合唱したいけど歌詞が難しくて憶えられない!という曲も世の中にはいっぱいありますからね(笑)。

オーディエンスが合唱してくれるようになればライブは一層盛り上がる(ように見える)はずなので、アーティストとしてもいい話でしょう。本気でそれを目的にするのであれば、現在のようにリアルタイムで歌詞が出るというよりは、カラオケの映像のように先回りで歌詞を出してもらわないと目が追いつかない可能性はありますが(笑)。

音楽業界の人たちというのは概して新しいテクノロジーやビジネスモデルに対してあまり積極的ではない人が多く(自分たちがやっていることはアートであってビジネスではないという「建前」のもとに不勉強かつ怠惰でいることを正当化しているように見えます)、結果として21世紀以降音楽ビジネスの環境はどんどん悪くなっていったわけですが、こういう小さな取り組みを積み重ねて、アーティストの人たちには才能に見合った収益を得てもらいたいと思います。

先日AMORPHISのトミ・コイヴサーリ(G, Vo)がAMORPHISがツアーの後すぐにアルバム制作に取り掛かって新作をリリースしていることについて、「俺たちは2年間もバハマでオフを取れるほど金持ちじゃない」とインタビューで語っていましたが、小国とはいえ母国フィンランドでチャートNo.1を何度も獲り、世界第3位の音楽マーケットであるドイツでもTOP10にランクインするようなレベルのアーティストが金持ちになれないなんてビジネス環境はあまりヘルシーじゃないと思いますからね。そんな状況だと才能がある人でもミュージシャンになりたがらなくなってしまいます。

さて、この文章はいったい誰に向けて書かれているのか書いた当人でさえ謎なのですが(笑)、amassの記事を見てちょっと考えさせられたので、GWの予定がない日であることをいいことに書いてみました。

上記のロジックに従うと、"Photograph"という曲自体はあまり新たにリリック・ビデオを作る意味は薄い気がしますが(笑)、明確にギター・リフ・オリエンテッドなHR/HMチューンなのに抜群にポップでキャッチー、というマジカルな名曲なので、もし聴いたことがない人がいたらこの機会にぜひ聴いてみてください。




こちらはオリジナルのMV。


このMV、なぜかオフィシャルで公開されたのはつい最近で、恐らく個人がアップした違法(?)動画が2500万回近く視聴されているんですよね。ちょっと前までは1再生あたり0.1円だったので、本来は250万円くらいのバンド収入になったはずなのですが。

昔の曲のリリック・ビデオと作るもう一つの意味として、オリジナルのMVがあまりにもダサいのでマトモな映像を作る、というものがあってもおかしくありませんが、この"Photograph"の場合は、時代は感じさせるものの、後追いの私が観てもカッコいいと思えるので(若い人がどう感じるかはわかりませんが…)、そういう意味でもわざわざリリック・ビデオを作る意味は薄いような気がします。

「Gods Of War」とか「Die Hard Hunter」みたいなMVのない名曲で作ってくれれば…と思いつつ、この辺のドラマティック系の曲で映像作るならやっぱり普通にMV作ってほしいかな(笑)。

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