fc2ブログ

『90年代ヘヴィ・メタル/ハード・ロックディスクガイド』感想

90s_hmhrguide.jpg

3月2日にシンコーミュージックから発売された『90年代ヘヴィ・メタル/ハード・ロックディスクガイド』を読みました。

2017年に発売された『80年代ヘヴィ・メタル/ハード・ロックディスクガイド』はロングセラーで先日四版されたそうです。

言うまでもなく一般的にヘヴィ・メタル/ハード・ロックの黄金時代というのは80年代とされており、ヘヴィ・メタル/ハード・ロックの名盤を、年代の偏りを気にせずに100枚選ぶなら大半が80年代のものになると思いますし、現在レジェンドとされているメタル・バンドの多くも80年代(あるいはそれ以前)にデビューしたバンドばかりです。

そういう意味では『80年代ヘヴィ・メタル/ハード・ロックディスクガイド』が売れるのはある意味想定の範囲内。

しかし90年代というのは、日本でこそCDは売れていましたが、世界的には「HR/HM暗黒時代」とされています。

いや、NIRVANAやSMASHING PUMPKINSのような「グランジ/オルタナティブ」とされていたバンドこそが90年代のハード・ロックであり、KORNやLIMP BIZKITといった「NU METAL」などと呼ばれていたようなバンドこそが90年代のヘヴィ・メタルだ、という歴史観に立てば90年代もハード・ロック/ヘヴィ・メタルは大人気だった、と言えなくもないのですが、実際の所、そういう価値観は主流ではありません。少なくともここ日本では。

METALLCA、IRON MAIDEN、JUDAS PRIEST、MOTLEY CRUEといった、80年代のシーンを代表するメジャー・メタル・バンドが90年代、特にグランジ/オルタナティブのブームがピークを迎えた93年以降にリリースしたアルバムというのは正直ガッカリ作が大半でしたし、そんな時代のディスク・ガイドが読み物として成立するのか、という疑問は湧きますよね。

一応本書にもNIRVANAやKORNなどは取り上げられていますが、明らかにその比重は軽く、基本的には『BURRN!』誌が推していたような、80年代の流れを汲むHR/HMのアルバムを中心に紹介されています。

ていうか、「アルバムガイド」ではなく「ディスクガイド」というタイトルである辺りにターゲットをリアルタイム世代に絞っているという感じが伝わってきますね。今の若い人にとっては「ディスクとは何ぞや」という感じですもんね。

基本的には1990年から1999年までの10年間を対象に、1年ごとにリリースされた主な作品を淡々と紹介していくという、ストイックというかヒネリのない構成になっており、まあ、下手な編集を入れるよりは賛否両論にならないというか、ぶっちゃけこれも「解説」が必要な人というよりは、既に充分に知識がある人を対象にした結果のような気がします。

こうして見ると、90年代というのはやはりなかなか厳しい時代で、メジャーなHR/HMバンドは多かれ少なかれ時代の影響を受けて本来の持ち味とは異なるというか、80年代に築き上げた美点を自己否定するかのような作品をリリースしていますし、ジャンルとしても多様化/細分化が進んだ結果、1人の人間が愛するにはサウンドの幅が広がりすぎて好きになれないアルバムが増えていると思います。

極端な話、80年代であれば、DEEP PURPLEとPOISONとMETALLICAというのは、それぞれ全然違う音ですが、ギリギリ1人の人間が好きになれたと思うんですよ(いや、無理、という人もいると思いますが、私はOKでした)。

ただここに、デス・メタルだ、ブラック・メタルだ、ゴシック・メタルだ、プログレッシヴ・メタルだ、ドゥーム・メタルだ、グラインドコアだ、NU METALだ、と次々と新しいサブジャンルが提示されると、どこかで「これは苦手だな」という音にぶち当たると思いますし、そもそも聴く時間が有限である中で、「IRON MAIDENみたいな音が好きなのに、なぜブラック・メタルまで聴かなくてはならないのか」という疑問に行き着きます。

そういう意味で『80年代ヘヴィ・メタル/ハード・ロックディスクガイド』に紹介されているアルバムは全部好き、はあり得ると思いますが、本書に紹介されているアルバムが全部好き、という方は稀有だと思いますし、そうなるとやはり「90年代」という時代だけで括るのは1人の人間のニーズに応えるコンテンツとしては無理があると思われます。

じゃあなぜ私はこの本を買ったのか。

それは私が1977年生まれで、1990年に中学1年生になり、1999年に大学4年生になる、すなわち学生時代がスッポリ90年代という「90年代ド真ん中世代」だからです。

とはいえ厳密に言えば私がHR/HMに触れたのは、既にJ-POPとして有名だったX(JAPAN)を除けば1992年からですが、いずれにせよ多感な思春期にHR/HMに触れてからというもの、常にHR/HMが青春のサウンドトラックでした。

ほぼ毎月『BURRN!』を購入し、ディスクレビューのページを穴が開くほど読んで、「今月はどれを買おうか」と吟味する。もちろん社会人になってからも『BURRN!』は毎月購入していましたが、あの頃のような熱量で読むことはありませんでした(正確に言えば大学生になる頃にはある程度自分の好みや価値観が確立し、同誌に対して批判的な目で読むようにはなっていましたが/苦笑)。

そのため、本書で紹介されているアルバムは、聴いたかどうかはともかくとして、どれもアルバムのジャケットとタイトルに(『BURRN!』のレビューを通じて)見覚えがあり、たまらなく懐かしい。

いや、いくつか「こんなアルバムあったっけ?」というものも散見されるのですが、それらはほぼ例外なくブラック・メタルかドゥーム・メタル/ストーナー・ロック界隈のアルバムで、当時恐らく日本盤がリリースされていなかったものなのではないかと思われます(確認はしていませんが)。

本書の編集担当が奥野氏ということもあって、同時代の『BURRN!』誌よりもアンダーグラウンドなバンドの紹介が多いようにも思いますが、2022年現在のシーンや評価を踏まえて振り返るとこうなるのは自然なことなのかもしれません。

IVANHOEとかSANVOISENとか、当時「ドイツ出身」というだけで興味を持ったようなマイナーなバンドが複数枚セレクトされているにもかかわらず、当時日本で結構売れていたVALENTINE(ロビー・ヴァレンタイン)が完全に黙殺されているのは、奥野氏的にいけすかなかったからなのか、素で忘れられていたのか、どちらなのでしょう(笑)。

読んでない方のために念のために補足しておくと、FAIR WARNINGとかTERRA NOVAとかTENとか、当時日本以外では存在感皆無だったであろうメロディアス系のバンドもちゃんと載っています(が、VALENTINEなし)。

いやでもこうして見るとやはり90年代というのは振れ幅の大きい時代でしたね。80年代までは「売れる音」というのがほぼ一定の大衆性を示していましたが、PANTERAの"FAR BEYOND DRIVEN"(1994)みたいなゴリゴリにヘヴィなアルバムが全米No.1になりましたし、HR/HMではありませんが、BECKとかPRIMUSみたいな極めて実験的な音楽が全米で売れ、MELVINSとかBUTTHOLE SURFFERSみたいなアングラの極みみたいなバンドがメジャー・デビューしていたわけですから。

そういう振れ幅の大きい時代に青春を過ごし、友人とのCDの貸し借りや、大学のバンドサークルで半強制的に耳にすることなどを通じて多様な音楽に触れたことで自分の感性も広がったし、好き嫌いの価値観も明確化されたような気がします(後者は良いことなのかどうか微妙ですが)。

そして作品クオリティ的にも、今はインディーズのバンドでも上手い演奏、ProToolsなどを使った良好なプロダクションが当たり前で、パッと聴きメジャーのアルバムに引けを取らないクオリティになっていますが、当時のインディーズ作というと本当にショボい音でしたから、そういう意味での振れ幅も大きかったですね。

80年代以前はそもそもそういう非プロフェッショナルな音を耳にする機会が殆どありませんでしたが、90年代はとりあえず流通的にはそういう音を特にマニアではない一般人が(輸入盤を扱う大きいCDショップがある地域に限られたとはいえ)聴く機会を得られたという意味でも、ある意味エキサイティングな時代だったと思います。

今となってはYouTubeなどを通じて「全てが手に入る」時代なわけですが、お金や行動半径などの限界がある中で自分にとっての宝物を見つけていく過程は、今思えばとてつもなく効率が悪い一方で、たまらなく楽しい経験だったな、と思います。

そんなわけで本書は、自分にとってはあまりピンと来ない大量のアルバムと、その中で見つけた珠玉の宝物が紹介されている、まさに青春の思い出そのものな一冊です(笑)。

スポンサーサイト