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W.A.S.P. / REIDOLIZED - The Soundtrack To The Crimson Idol

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W.A.S.P.の最高傑作とされる1992年の名盤『THE CRIMSON IDOL』のいわゆるリ・レコーディング・アルバム。

『THE CRIMSON IDOL』は、THE WHOの名作ロック・オペラ『TOMMY』からの影響を感じさせる(こういう伊藤政則氏的な物言いが果たしてHR/HMのファンにとって魅力的に聞こえるのかどうか私には疑問なのですが)、ブラッキー・ローレス(Vo, G, Key)の体験をデフォルメして描かれる、ジョナサン・スティールというロック・スターの人生を描いたコンセプト・アルバム。

猫も杓子もコンセプト・アルバムをリリースする近年はいざ知らず、当時HR/HMバンドがコンセプト・アルバムをリリースするというのは珍しく、本作はQUEENSRYCHEの『OPERATION : MINDCRIME』(1988)、SAVATAGEの『STREETS : A ROCK OPERA』(1991)と共に、このジャンルを代表するコンセプト・アルバムの名盤として、評論家やプレスに絶賛された。

W.A.S.P.というバンドはデビュー当時、下品で野蛮な色物バンド的なイメージで売っていただけに、そんなバンドがコンセプト・アルバムという「知的な」作品を作り上げたことも、当時のHR/HMファンには驚きをもって迎えられたようだ。

前作『THE HEADLESS CHILDREN』の時点でその傾向は顕著になっていたものの、ここまで振り切った作品を作ったのは、本作が元々ブラッキー・ローレスのソロ・アルバムとして制作されていたからである。

レコード会社が「W.A.S.P.名義で出した方が売れる」と考えたことで結果としてW.A.S.P.のアルバムとしてリリースされたわけだが、そういう金儲けしか考えていないレコード会社への憤りというものも本作を制作するモチベーションのひとつだったようだ。

結果論で言えば、実際にブラッキーのソロ・アルバムとしてリリースするよりもW.A.S.P.名義で出した方が短期的にも売れたと思うし、長期的に見ても「W.A.S.P.」というブランドの寿命を延ばすことに大いに貢献することになったと思われるわけだが。

本作が素晴らしいのは、最近世に溢れる「コンセプト・アルバム」の多くが、単に楽曲はコンセプト作以外のアルバムと大差なく、歌詞だけテーマやストーリーを持たせているだけなのに対し、コンセプトを持って取り組んだからこそこういうサウンドになったと思われる所で、その音楽がそれまでの彼らの音楽より(個人的には)はるかに魅力的なものに仕上がっている所だ。

哀愁を帯びたメロディの充実、アルバム全体のみならず楽曲単位でもドラマティックに構成が練られたものが多く、それでいてアルバム全体として単なるテンポとは無関係な、謎の疾走感に満ちていて、長尺の曲やバラードを含むにもかかわらず一気に聴くことができる。

ネガティブな見方をする人は、ブラッキーのパワフルだが狭い音域に由来する歌メロのバリエーションの乏しさや、むやみやたらと手数の多いドラミングをワンパターンと評することもあるようだが、本作についてはそれがアルバムとしての統一性、本作の持つ唯一無二のオーラにつながっていると思う。

と、ここまで書いて、自分が『THE CRIMSON IDOL』のことしか語っておらず、この『REIDOLIZED』のことを何も説明していないことに気が付いた(笑)。

まず、私自身がそう思っているので、本作についてもそう思っている人たちに伝えておきたいのは、名盤の再録というのが往々にしてオリジナルの劣化コピーになりがちなのに対し、本作は少なくともガッカリさせられるようなリメイクにはなっていないということである。

年月によって一番劣化しがちなヴォーカルも衰えはほとんど感じられないし、アルバムに漲っていた緊張感や勢いも意外なほど保たれている(前のめり感やエッジは若干薄まった気もするが気になるほどではないし、トータルで見れば録音機材の進歩によって音質自体は良くなっていると言えるだろう)。

そして今回、オリジナルに6曲の新しいトラックが追加挿入されている。単なるボーナス・トラックではなく、ストーリーを補う、ちゃんとコンセプトに沿ったものである。

6曲と言っても2分に満たない小曲や単なるナレーションも含むので実質的な「新曲」は3曲だが、それらもオリジナルの『THE CRIMSON IDOL』収録曲を超えるものではないにせよ、違和感を与えることのないクオリティを備えていて一安心。

むしろ、どうせ拡張するなら『THE CRIMSON IDOL』のリリース当時シングルB面曲に回された「Phantoms In The Mirror」と「The Eulogy」も上手く流れに入れ込めばよかったのに、なぜそうしなかったのだろうか。

また、本作のリリースに合わせて、『THE CRIMSON IDOL』のリリース後、映画化を目指して数百時間分が撮影されたが、結果的にはお蔵入りとなった映像作品が商品化されているのもファンには興味深いポイント。

恐らく元々はちゃんとした「映画」にしようとしていたのではないかと思われるが、恐らくは予算の都合で、「モノローグ的なナレーション入りのイメージ映像集」のようなものに仕上がっている。特筆するような代物ではないが、決してチープではないし、ストーリーの理解補助には充分役立つ映像になっているので、ファンであれば一見の価値はある。

私は近年流行りの「アルバム完全再現ライブ」みたいなものにはあまり魅力を感じず、普通にグレイテスト・ヒッツ的なライブをやってほしいと思うタイプのリスナーですが、本作に関しては完全再現ライブを観てみたいと思いますね。

当サイト/ブログの読者さんで、私の音楽的嗜好に共感しつつ、W.A.S.P.というバンドに対して「LAメタルのバンドでしょ」と思って敬遠している方がいたら、ぜひ聴いてもらいたいアルバムです。

何しろ『THE CRIMSON IDOL』というアルバムはアメリカではチャート・インすらしなかったものの、イギリスでは最高21位を記録、その他ドイツでは最高位こそ35位ながら13週に渡ってチャート・インするロングセラーに、その他中欧・北欧でヒットした(ノルウェーでは11位まで上昇)というアルバムなので、「そういう音のアルバム」だと思っていただければ幸いです。

そしてさらに言うなら、『THE CRIMSON IDOL』はスウェーデンで最も長い歴史を持つ音楽雑誌『Close-Up』が、通算100号発売記念に選出した、1991年から2008年に発表されたHR/HM、パンク/ハードコアなども含むエクストリーム・ミュージックのベスト20アルバムの第14位にも選ばれているという、カルト的な支持を誇る名盤なのです。未聴の方はぜひ一度お試しください。



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コメント

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No title

私、音楽の入りがクイーンとかZepなどのいわゆる70年代洋楽でして、その後何故かスラッシュメタルやNWOBHM等にはまっていったのですが、やはりそうなると、LAメタルという音楽は一番遠い存在でした。

なにせ、スラッシュメタルとLAメタルは中が悪い...なんて話もありましたし...(もちろんリアルタイム世代ではないのでただただそう信じていただけですが)

そんな私がLAメタルも聞いてみようと思ったのが、adoreさんの「あの記事」でした。

基本的に哀愁の効いたメロディーが好きなので、やはり一番最初にはまったのはDokken...

その後70年代のブリティッシュロックを意外にも正当に引き継いでいるように感じられ、Kingdom ComeやGreat Whiteも好きになりました。

純粋に聴ける音楽が増えたので、adoreさんには非常に感謝しております。

そんな中で当然Waspのこのアルバムも聞いてみました。

レビューにもある通り、哀愁のあるメロディー、ドラマティックな展開、全体に滾る謎の疾走感とテンションの高さ(やっぱりドラムの手数が大きいですかね)等々、好みドンピシャで結構愛聴しております。

リ・レコーディング版という存在自体に中々手を出しずらい壁を感じてしまうので、こちらを購入するのは少し先になってしまいそうですが、いづれ買おうと思ってます(笑)

00年代以降くらいから音楽を聞き始めた人間には、ちょうどこの辺のバンドが一番アクセスする機会が無いように感じるので、時々また紹介して頂けると嬉しいです(笑)

いつも楽しく読んでいます。
文章はある程度、文字数がいると思っています。
W.A.S.P.とは、やや意外なチョイスですね。W.A.S.P.というよりブラッキーは、初めにコンセプトありきの人なんでしょうね。バンドのイメージ作りやその後のアルバムにほぼ必ずテーマをもってくることに、それを感じています。頭がいいと言われていますが、多分、かなり面倒くさい人のような・・。
とはいえこのアルバムのもつ緩急や高揚感は、聴く映画のようで、コンセプトアルバムはこうあって欲しいと思います。

>紅さん

おっしゃる通り、LAメタル系のバンドというのは近年一番若いリスナーと接点のないタイプのメタルという気がします。

LAメタルといっても色々なバンドがいるんですけど、なまじ一世を風靡した分、一番古臭いイメージになってしまっているような。

DOKKENやKINGDOM COMEが気に入ったというのはよくわかります。一応あの記事は結構渾身の文章だったので、誰かに何かしら新しい音楽への出会いを提供できていたとしたら嬉しいですね。

まあ、ぶっちゃけ『THE CRIMSON IDOL』を既に聴いているのであれば、本作を聴くことはマストではないと思いますが、もし『THE CRIMSON IDOL』を聴いたことがない人にとって「きっかけ」になればいいなと思います。

温故知新的なエントリーはこれからちょいちょい入れていこうと思ってます。新譜は色んな人がいろんな形でレビューしますから、そういう所でちょっと差別化していこうかなと。

RISING FALLは紅さんのバンドですか? 頑張ってくださいね。

>大介山さん

大介山さんのような長いこと読んでくださっている方は長文に耐性がある人なのでしょうね(笑)。

とはいえ仕事でスマホ向けのサイトやコンテンツを作る時にはとにかく簡潔にしないと読んでもらえないというのがアクセス解析で明らかなので、冗長にはならないようにしたいと思っています。

そういう意味でこのエントリーは完全に失敗です。書き終えてブリトニー・スピアーズの「Oops!...I Did It Again」が頭の中に流れてきましたね(笑)。

ブラッキーがめんどくさい人というのは間違いないと思います。ジェフ・テイト然り、ロック・ミュージシャンで知性派を気取る人なんてだいたいめんどくさい人でしょう(苦笑)。