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YNGWIE MALMSTEEN "BLUE LIGHTNING" アルバム・レビュー

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『YOUNG GUITAR』誌の最多表紙記録を持つスーパー・ギター・ヒーロー、イングヴェイ・マルムスティーンの、「ブルーズ」をキーワードにしたクラシック・ロックのカバーとオリジナル曲による企画アルバム。

ブルーズがテーマといっても、デルタ・ブルーズとかシカゴ・ブルーズみたいなディープな「それそのもの」ではなく、あくまでそれらの音楽に影響を受けたロックなので、これまで彼がライブやアルバムで披露してきたジミヘンもどきなプレイや楽曲の延長線上にあるものであり、そういう意味ではファンにとって目新しいものではない。

元々はイングヴェイのそういう面に目を付けた、現在の彼の欧米におけるレコード・ディストリビューターであるオランダの『Mascot Records』が、ブルーズをテーマにした企画盤の制作を彼に持ち掛けたことが本作が制作されるきっかけだったそうで、レーベルが提案してきた曲は全て却下して全て自身で選曲したというのは彼らしいエピソードだろう。

而してその選曲はTHE BEATLES、THE ROLLING STONES、ZZ TOPにエリック・クラプトンといった、彼らしからぬというか、これまであまりイングヴェイがルーツとして語ってこなかったアーティストの曲を含みつつ、ジミヘンが3曲、DEEP PURPLEが2曲と複数選曲されているあたり、「結局はそこなのね」というお里の知れる感じは否めない。

これまでライブで散々カバーしてきた"Purple Haze"を今更レコーディングするの? とか、"Smoke On The Water"はさすがにベタ過ぎませんかとか、"Paint It Black"に"Jumping Jack Flash"って、有名曲だけど、ストーンズならもっと他にブルージーな曲はあったんじゃないですかと、個人的には難癖を付けたくなる選曲である。

『Mascot Records』といえば、エリック・ジョンソンやレスリー・ウエスト、ロバート・クレイやジョー・ボナマッサといった名ギタリストが数多く所属する「わかっている」レーベルだけに、きっとレーベルからの提案の方が良い選曲だったんじゃないかという疑念は拭えない。

DEEP PURPLEの"Demon's Eye"なんて、(彼らの曲の中では)大した曲じゃないのに"INSPIRATION"に続いて2回目の収録。なんでもその"INSPIRATION"のバージョンが気に入ってないのでリベンジ的に再録したそうだが、キーが変わって歌が下手になった("INSPIRATION"で歌っていたのはジョー・リン・ターナー)だけ、という気がする…。

その"INSPIRATION"アルバムを彼は「これはカバー・アルバムではなく『インスピレーション・アルバム』だ」と、謎のアピールをしていましたが、本作についても「カバー・アルバムではなくヴァリエーション(変奏曲)・アルバムだよ」と主張していて、こういう周囲からのツッコミを恐れずに意味なく「他とは違う」ことをアピールする姿勢は、意外と彼のキャラクター・ブランディングに寄与している気はするので、広告屋としてその点は評価します(笑)。

このアルバムを聴いた人の評価というのは、きっとその人がイングヴェイ・マルムスティーンというアーティスト/ギタリストをどう評価しているかによって真っ二つに分かれるに違いない。

それは「どんな曲でもマルムスティーン印にしてしまうイングヴェイはやっぱり絶対的個性の王者だぜ」という意見と、「なんてこった、原曲の魅力が木端微塵だぜ」という意見である。

私? 私は前者のような感想を抱けることを期待して聴いた結果、まあ、後者かな…と思ってしまいました(苦笑)。これならクラシック・ロックのカバーを減らして、"Bedroom Eyes"とか"I Don't Know"みたいな、本人が歌っていないジミヘン路線の過去曲を再録してくれた方がファン心理的には興味深く聴けたような。

客観的にはどうなんですかねえ。もしこのアルバムがイングヴェイのアメリカにおける人気が絶頂だった"ODYSSEY"の後に出ていたら、ゲイリー・ムーアの"STILL GOT THE BLUES"みたいな「英米で一番売れたアルバム」になったりしたんでしょうか。

世の中の「音楽好き」には大きく3つのタイプに分かれると感じており、「音楽を聴くのが好きな人」と、「音楽を演奏するのが好きな人」、そして「音楽を作るのが好きな人」がいる。

基本的にはこれらは重複することも多いが、どれかに強く偏ることも多く、イングヴェイは典型的な「演奏が好きな人」なのだと思うので、今後はこういう他人の曲をレイプカバーして生きていくという道もあるのかな、と思っていたが、このアルバムはあくまで「企画盤」で、今後は従来のオリジナル路線に戻るつもりのようである。

ただ、以前にも同じようなことを書いたような気がするが、専任シンガーを入れずに本人が歌うつもりである限りネオクラシカル・メタル路線はキツいし、かと言って、今の構築美を捨てたイングヴェイの作曲法でインスト曲を量産されても集中力が続かない。

そうなると、むしろこういうブルーズというかジミヘン路線の曲をメインにして、2、3曲ネオクラシカル系や泣き系のインストを挟む、くらいの方が聴きやすいアルバムになるんじゃないかという気がするんですよね。

あと、やはりレコーディング・テクノロジーの発達によって安価に良音質を作ることが比較的容易になったこのご時世にこの音質は、もはや本人の耳がマーシャルの壁による爆音でバカになってしまったとしか思えないな(苦笑)。【74点】


こういう曲がつまらないというわけではないし。


こういう泣きのギター・インストは、アルバムに1曲入っている分にはとても良いアクセントだと思うのだが。


このサイトが始まって以降リリースされたアルバムを手放しで褒めた試しがないので、もしかすると私のことを彼のアンチだと思っている方がいるかもしれませんが、昔のイングヴェイは今でも相当好きですよ。"ATTACK"までは今でもちょいちょい聴きます。

ていうかむしろここしばらくなぜかその"ATTACK"のタイトル曲が脳内でヘビーローテーションされる怪奇現象に悩まされて(?)います(笑)。

この曲、数年前(いや、もう10年以上前だな)御茶ノ水の楽器屋が店外に聴こえるように流していて、どう考えても公道に向けて公衆に聴かせる歌詞じゃないだろう、と感じた記憶があります。

だって

Kill These Insects(この虫ケラどもを殺せ)
Show No Mercy(慈悲など無用だ)
You Must Die Now(貴様は今すぐ死ななくてはならない)

こんな歌詞ですよ?

この厨二っぷり…好き。

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コメント

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次作の要望!?

「マーシャルの爆音で、耳がバカになっている。」
不謹慎かもしれませんが、個人的に大爆笑でした。
アルバムを最近まで惰性で購入していた私も
前作くらいから購入を止めました。
音の悪さもさることながら、楽曲が・・・。
もう年齢も年齢なので、今後にも
期待はできませんが、願望としては
・上手いVo(でもマークボールズは好きではない)
・バトルができる実力者keyおよびそんな
 展開の曲
・ご自身Voの楽曲ゼロ
・誰でも良いから正常な耳を持つ
 ミキサーの方
こんな感じで次作は作ってくれませんかね~
亜流の方たちのほうが近年は曲も良いから難しいか。
Kill These Insectsみたな歌詞は、大歓迎です!(笑)

No title

アクが強すぎたせいでメタル界のキワモノヒーロー的なポジションになってしまってるのが惜しまれる…ミュージシャンの訃報を続々と聞く中、存命で今も元気であるということだけで十分なのかもしれないが

前作のレビューをしていない時点でadoreさん完全に見限ったんだろうなあと勝手に思っていました(笑)。自分は「Relentless」の時点で呆れてしまったので今回も多分スルーです....

イングヴェイ本人は絶対認めないでしょうけどここ10数年彼の出している物は、イングヴェイの歴代Voが参加しているバンド/プロジェクトの殆どの作品の内容に全然及ばないと思います。今年だってティムのA New Revenge、ヨランのCrossfadeは勿論、これからリリースされるジェフのSOTOとマッツのDogfaceがこのカヴァーアルバムより出来が悪いとは公開されている曲を聴いても到底思えないですし。

ユニヴァーサルにいた頃も特に変化が無かったですが、Frontiersに移籍してレーベルがメンバー選考、シモーネ・ムラローニとかダニエル・フローレス辺りに音と曲作りは任せる(最悪ギターソロはイングヴェイが考えたもので妥協します)ぐらいしたらもう一度期待しますけどね。良いメンバー集めても今のイングヴェイが曲書いてたのでは宝の持ち腐れですから。ジェフ・テイトだってシモーネと組むんだから、もし移籍したら意外とやってくれるのではと思うのですが。

各所で酷評されてるので、逆に聴きたくなってきました(笑
Attackまで聞ける、というのは相当懐の広いファンなような。

ピックアップされてる歌詞がかつて彼がディスっていたスレイヤーみたいなのは面白いですね。

>かじやんさん

耳がバカになっているというのは冗談ではなくマジなんじゃないかと思ってます。

ミキサーさんは多分マトモな音を録音するんだと思いますが、イングヴェイ自身が「こんな音じゃダメだ! こうしろ!」とダメ出しした結果こういうサウンドになっているのではないかと。

多分今のイングヴェイは自分より注目を集める可能性があるような上手いヴォーカルの加入も、自分と張り合うようなキーボードも望んでいない、「俺だけを見ろ!」な状態なんだと思うので、もうかじやんさんが望むような音楽を作ることはないんだと思います。残念ながら…。

>人さん

まあ、この人の場合、もうできることはやり切ってしまったので、あとはご本人の好きなように余生を過ごしてもらえばいいんじゃないでしょうか。

それにどこまで付き合うかは彼に対する思い入れ次第でしょう。

>YTさん

他人と一緒に曲を書いたり、他人のプロデュースを受け容れる度量があれば、ここまで駄作連発になることはないのだと思います。

私もイングヴェイが『Frontiers Music』のプロデュースで何かプロジェクトをやれば、一気に良い曲とマトモなサウンドが手に入って聴き応えのあるアルバムが提供されるのではないかと思いますが、今の彼が他人の指図を受けるとは思えないんですよね…。

>さそりさん

まあ私もこのアルバムで自分が感動できるとは全く思わずに、ある種「怖いもの見たさ」で聴いてみた面は否めません(笑)。

『Mascot Records』の公式YouTubeチャンネルでオフィシャルに全曲聴けるので、さすがに買うのはちょっと…ということであればそちらで聴いてみてはいかがでしょうか。

SLAYERをディスっていたのは音楽面、特にあのパッと聴きデタラメに聴こえるギターソロだったと思うので、歌詞は別にいいんじゃないでしょうか(笑)。

No title

朝日新聞に公告が掲載されていてビックリしました!(笑)

お久しぶりです。普段はウェブ拍手してます。コメントだと長くなるので…。

イングヴェイを聞き慣れていて、ウィットが利いてる記事って感じがします。面白いです。

ATTACK!は好きなアルバムです。
(Unleash〜以降は惰性で買ってる気が少しします。)
自分的にはミッドテンポの2〜3曲が怠いと思うだけで佳曲が多いと思います。
イングヴェイの歌うブルーズナンバーの「Freedom isn‘t Free」もイケてると思います。

自分はナンダカンダでイングヴェイの歌唱は好きなんで「World on Fire」や「Repent」、「Poisoned Mind」、「Look Out You Now」も好きです。
ブルーズを歌うような、あのくどい歌い回しが曲に合っているかどうかは別問題ですが(汗)

あの感じはあの感じで聞いてるうちにクセになってくるボブ・ディランをヘナチョコにしたみたいなウリ・ジョン・ロートの歌よりも断然上手く聞こえるし、ボーカリストを入れる気がないなら自分で歌うブルーズアルバムでも作って出せばいいって思ってたことも有るんですけど、いざブルーズアルバムが出たのにイングヴェイの作品で初めて買うのを躊躇してます。

カバー曲の存在が…、選曲に魅力を感じないのが一番の原因だと思ってます。
どのように料理されているのかわかりませんがローリングストーンズにエリック・クラプトン、ビートルズ、ZZトップ、どの人もバンドも好きな曲、知ってる曲は有れど狙ってアルバムを買った事がない人達なんですよね。

音質に関して「War to end〜」頃から悪いって言われてるような気がしますが、自分は気にならないですね。
バスドラの音がベチベチと鳴ってるのが嫌いなだけですね。
イングヴェイが「ProToolsは演奏が出来ない奴の為のオモチャだと思ってたけど、使ってみたら便利で自分は演奏の修正には使わないけど思い立った時にレコーディングしておいて後で編集すれば曲になるから良いものだ。」
みたいな事を言ってたような記憶があり、自分の勝手な想像ですがエンジニアを雇うような本格的なレコーディングという作業もしてないのでは?と思います。
高級機材で録った自宅録音のデモをアルバムにしてるみたいな。

アルバム制作自体が「作ったところで売るはずの店が存在しないんだからレコードを作る意味がない」とも言って気がするんですが、結局レコード作りへの意欲も薄れてるからレコード会社からの要請があったり、レコーディングらしきものをした曲が貯まってたまたまアルバムを作る気になった時にアルバムにまとめる作業をするだけで、その時にサポートをするくらいの人しかいないんじゃないですかね。経費節約の意味も込みで。
だから音がイマイチなんじゃないかなと。

まあ、自分は気になりませんけど(笑)

レコーディングといえばドラマーのLawrence Lannerbachって“ランナーバック”と読まされてますけど“レナーバック”と読んで兄か姉の子供とかだったりするんでしょうかね?
親戚を雇って経費節約とか…?

1980年代から活動していたミュージシャンらしく(?)、マネージャーに金を横領されてたとか痛い目に遭ってた(らしい)のもあるんでしょうけど、エイプリルがマネージャーになってRisingForceRecordsからセコイ商品を出してから、オリジナルアルバムもイマイチになってる気がしてなりません。



「マーシャルの壁の爆音で耳がバカ」
…好きです。

>とうもろこしさん

テレビ欄に出ていたみたいですね。

イングヴェイの初期からのファンとなるともういい歳でしょうし、全盛期には武道館公演や秋田あたりまでも含むような全国ツアーをやっていたくらいの裾野もあるので、オールド・ファンの掘り起こしには専門メディアよりこういう一般紙媒体のほうがリーチしやすいと考えたのかもしれません。

>takkさん

お久しぶりです。ウェブ拍手してくださっているそうで、ありがとうございます。どんな形であれリアクションがあると張り合いがあります。

『ATTACK』、確かにちょっと散漫な所はありますが、一定水準以上の楽曲の多さという意味ではなかなか良いアルバムですよね。

イングヴェイのアルバムに関しては、全盛期も良くはなかったですからね(なぜかヨラン・エドマン時代だけは当時なりのメジャー・クオリティだったと思いますが)。80年代の彼のアルバムの音に不満がない人なら、今の音もさほど気にならないかもしれません。

ドラマーについては本人は「普段はポップスの仕事をしているスタジオ・ミュージシャンだ」と言い張ってますが、一方で「2曲くらいは自分で叩いた」とも言っているので、たぶん実際は全曲自分でプレイしたんじゃないでしょうか。

そしてレコード会社にはドラマー分の人件費を請求しているのでしょう(笑)。

本作に関しては、カヴァー曲、カヴァーしているアーティストに魅力や興味を感じないようであればスルーでいいんじゃないですかね。

聴きようによっては、メタル耳だとタルいストーンズやZZ TOPの曲がヘヴィになってカッコいいと感じる人もいるんじゃないかという気もしますが。