映画『ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン』感想

先日、日本武道館で来日公演を行なったJOURNEYのドキュメンタリー映画「ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン」を観に行ってきました。

公開初日である3月16日、18時20分の回という割といい時間で、新宿ピカデリーの中ではあまり大きくないスクリーン5(157席)が8割くらいの埋まり方。あんまりロングランは期待できないかも。

入口でステッカーをもらったけど、場内の観客の年齢層の高さ(40代~50代が大半だと思われる)を考えると、ステッカーなんかもらっても使いどころがないのでは(苦笑)。

基本的には資料映像とインタビューをつなぎ合わせたいわゆる「ドキュメンタリー」で、ANVILのように「映画」として作られた作品という印象はなく、どちらかというとファン向けの作品という感じ。

とはいえ、ファンならずとも現在JOURNEYのフロントマンを務めるアーネル・ピネダの生い立ちや人柄には胸を熱くさせられることはたしかで、「JOURNEYのヴォーカルはスティーヴ・ペリー以外認めない」という人でも、この映画を観て彼に対して悪意を持つことは難しいのではないだろうか。

フィリピンの貧しい家庭に育ち、母親の病死によって、医療費のために住んでいた安アパートを追い出され一家離散、13歳で親元を離れてホームレス生活を送っていた時期があるという、およそ日本ではありえない貧乏のどん底から、40歳にしてアメリカでも屈指のビッグなロック・バンドのフロントマンに抜擢されるという、ほとんどありえないような現代のシンデレラ・ストーリーは、現実でありながら確かにそれ自体映画のようなお話。

しかもそれが自らJOURNEYのヴォーカルになろうとオーディションに応募したというわけではなく、友人が彼の実力を少しでも多くの人に知ってもらおうと、通信環境の悪いネットカフェから1日がかりでYouTubeにアップロードした動画が、シンガーを探していたニール・ショーン(G)の目に留まって、JOURNEY側からアプローチされる、なんていうのがなんともインターネット時代ならではの奇跡。

そして何より胸を打つのは、アーネルの人柄だろう。上記のように貧乏のどん底を経験し、その後麻薬中毒になったり、離婚を経験したり、声が出なくなって医者に歌うことを諦めろと言われるなど、普通の人であれば立ち直れない、少なくとも人格が少しばかりねじ曲がってしまってもおかしくない経験をしていながら、アーネルはあくまでもポジティブで、明るく人懐こい笑顔を絶やさない。

有名なロック・バンドのフロントマンとして毎晩のように何万というオーディエンスの前で歌うようになっても、決して増長することなく、常に謙虚な態度でいることも、これまで苦労をしてきたからこそなのだろう。

この映画を観て、アーネル・ピネダのWikipediaを調べてみると、映画で語られる彼の過去は、やや不幸な面ばかりがフォーカスされている観があり、それは演出上のものだろう。

彼、もしくは彼がフィリピンでやっていたバンドは、フィリピンのメジャー・レーベルに所属していたし、ちょっとしたヒット曲なども出してはいたようだ(そういう経験がなくては、いかに歌が上手かろうとさすがにJOURNEYのフロントマンは務まるまい)。

1990年にはINTENSITY FIVEというバンドで来日して、ヤマハのコンテストで最優秀ヴォーカリスト賞を受賞していた、などというのは、映画中では語られないが、今となっては知る人ぞ知るエピソードだろう。

とはいえ、映画中で彼が「山あり谷ありの人生だった」と語る「山」の部分でさえ、JOURNEYでの活躍に比べれば、子供が砂場に作る程度のもので、JOURNEYでの活躍とは比べるべくもない。

そしてそのJOURNEYでの活動も、決して全てが喜びに満ちているわけではない。彼を認めないJOURNEYファンからの中傷、そして何千何万というオーディエンスの期待を裏切れないというプレッシャー、そして愛する家族と離れ、異国で長期のツアーに出なくてはならないという苦労。

作中でアーネルが睡眠導入剤とステロイド剤をやめられない、とこぼしているシーンがあるが、それはJOURNEYのシンガーというポジションがいかに精神と肉体の両面に負担をかけるものであるかを端的に伝えるものだろう。

さらに、JOURNEYにおいては「アーネル・ピネダ」としての個性は求められず、あくまでスティーヴ・ペリーのクローンに徹しなくてはならないという立場も、考えようによっては辛いことだろう(彼は「その方が仕事として割り切れてよかった」と述懐しているが…)。

この映画中では完全に「なかったこと」にされているが、アーネル・ピネダの前任シンガーだったジェフ・スコット・ソートがバンドに定着できなかったのは、きっと彼にスティーヴ・ペリーのクローンとしてやっていける資質がなかったから、ということなのだろう(むろん、それはジェフ・スコット・ソートというヴォーカリストの力量を否定するものでは一切ない)。

本作をキレイにまとめると「歌を諦めずに、世界レベルの実力を養い続けたからこそ、チャンスをものにできたサクセス・ストーリー」ということになり、それは一面の真実である。

ただ、アーネル・ピネダは別にJOURNEYに加入することを夢見て頑張ってきたわけではないだけに、本人も言っているように「宝くじに当たった」ような話で、このストーリーから何か教訓めいたメッセージを見出そうとしてもいささか無理がある。

とはいえ、そんなものを求めずとも、観て素直に「よかったね!」と思える「いい話」であることは確かで、音楽が好きで、世の中にはまだまだ夢があることを諦めたくない人にはぜひ観てもらいたい映画です。

ところで、本作の終わりに、本作のタイトルにもなっている彼らの名曲「Don’t Stop Believin’」は20世紀の楽曲で最もダウンロードされた数が多い楽曲である、ということが表示されるが、それってマジですか? 楽曲単位とはいえTHE BEATLESやマイケル・ジャクソンを超えているのだとしたらそれは相当すごいことですね。

当サイト/ブログはHR/HMをメインにしているサイトなので取ってつけたように付け足しておくと、HR/HMの中でもメロディアス・ハードと呼ばれるような音楽のファンであれば、そのオリジネイターというべきJOURNEYの名曲群は、ベスト・アルバムでも何でもいいので、ぜひ一度聴いてみてもらいたいな、と思います。

◆映画『ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン』公式サイト
http://journey-movie.jp/


◆映画『ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン』予告編映像 [YouTube]


◆ラスヴェガスでの「Separate Ways」のライヴ映像 [YouTube]


◆マニラでの凱旋公演における「Don't Stop Believin'」のライヴ映像 [YouTube]
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コメント

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時々みてます、参考になります。

ジャーニー

DONT STOP BELIEVEのダウンロード数の件ですが、確か最近アメリカのティーンに人気の
ミュージカルドラマの主題歌になってたと思います。カバー曲ですがその分もカウントされているんじゃないですかね。

そういえばジェフもジャーニーに在籍してましたね。いくらビッグバンドにいた経歴があっても僕的には(このサイト的にも?)イングヴェイバンドの初代Voというほうがしっくりきます(笑)

WOWOWにて見ました♪

武道館公演はジャーニーを知らない世代でも、いまWBCで盛んに流れてる「セパレート・ウエイズ」からスタートでしたね♪
頑張ってたと思いますよ。
いい声(あくまでもスティーブ・ペリーとして)だったかと…
それより私が終始気になったのがドラムでした。
やたら音もアクションも大きく元気でオマケにツーバス…
私の好きなタイプのドラマーでしたがジャーニーには合ってないようなアンバランスさを感じました。
私だけ?

まとめてお返事

>いのるさん
ありがとうございます。


>Mark.Nさん
ああ、「Glee」で使われていたやつですね。なるほど、きっとそうでしょうね。
現在JOURNEYのツアーが好調な理由の一つももしかしたら「Glee」効果なのかもしれませんね。

日本のメタル・ファンにとってはジェフはずっと「イングヴェイの」というイメージでしょうね。
TALISMANでの活動期間の方が長いのですが…(苦笑)。


>RED OCTOBERさん
WOWOWの中継、録画し忘れたんですよね。
4月19日に再放送があるようなので、そちらを観たいと思います。

ディーン・カストロノヴォはたしかにJOURNEYに対してはゴツいスタイルのドラマーですが、BAD ENGLISH以来のニール・ショーンの盟友なので、スティーヴ・スミス以外では彼しかいない、ということなのでしょう。

ドラマーはスタイルが違ってもOKなのに、シンガーはオリジナルのクローンでなくてはならない、というのが大衆を相手にするバンドのつらい所ですね(苦笑)。

JourneyはFrontiers(アルバム)とその他の有名な曲くらいしか聴いてないんですが、スティーブ在籍時の他のアルバムを聴いてみたいと思っているだけに、この映画は観てみたいですね。

アーネルはスティーブに声が似てる位しか印象が無かったのですがこの記事を見て彼のポジティヴィティに溢れる姿勢には感服しました。

アーネルが入ってからのアルバム聴いてみようかな・・・。

>Shuさん

観て損はない映画だと思います。
ハリウッドのアクション大作みたいな「大画面で観ないと」という映画ではないので、DVD化されてからでもいいかもしれませんが。

私もこれを観てアーネル加入後のアルバムを聴きたくなりました(笑)。

通ぶってるわけでもないのですが、自分はスティーヴ・ペリー加入前の、展開が多くアメリカン・プログレ然としていた初期3作が大好きです。
若い人には古臭く感じるかもしれませんが、ギターもキーボードも弾きまくりで、瑞々しいのに老獪といったセンスがたまりません。
日本では「ESCAPE」「FRONTIERS」あたりが一番「JOURNEYの音」として期待されるところだと思いますが、いわゆる「出世3部作」(日本以外で言われてるの?!)も案外初期のテイストの延長にあるように思えます。

それにしても…ジェフ・スコット・ソートだけじゃなく誰かスティーヴ・オージェリーにも触れてあげてください!

>メタリアン666さん

初期SANTANAがラテン色を抜いてプログレ化したような初期3作は、たしかにあれはあれで聴き応えがありますよね。大衆性は「?」ですが…(苦笑)。

ジェフはこの映画の中では完全に黙殺されていますが、スティーヴ・オージェリーはJOURNEYの暗黒時代を背負って喉をダメにしてしまったかわいそうな人として(?)ちょこっと登場しています。

観てきました

先日、観てきました。
3/11の武道館ライヴ前に観たかったですね~。録画しつつ、参戦してきました。

separate waysがディスコ(死語(笑))でかかって盛り上がってたのを知る世代なので、「Escape 」「Frontiers」はファンでないけど普通に買ってましたが、
journeyのライヴ参戦は、アーネルが入ってからの後追いなので、この映画は思い入れがありました。
ALbum「Revelation」で引きつけられまして。ペリーさんより雑な歌い方な気はしますが、気にいってます。
映画内で、シカゴのヴォーカルが「君の気持がわかるよ」と言うのが印象的でした。
人間アーネルを知るいい映画だと思います。(使い捨てにされないように、のどと精神を大事にしてほしいですね)

初期のJourneyもなかなか良さそうですね。
Youtubeで見てみようっと。

>KYさん

ライヴも映画もご覧になったんですね。
私の世代だとJOURNEYがかかるディスコ、というのが想像できないのですが、私の会社の先輩もLOVERBOYがディスコでかかっていた、と言っていたので、そういうものなんでしょうね。

映画で観る限り、アーネルはかなり喉を気遣っているようでしたね。
スティーヴ・オージェリーのようなことにならないよう、同じアジア人として頑張ってもらいたいですね。

はじめまして。

私プロでキーボードプレイヤー、作曲編曲などの仕事をしております。
プロばかりを集まったJOURNEYの完全コピーバンドにお誘いを受けました。
当初はそんなにJOURNEYに詳しくもなく、大ヒットした曲を知っている程度でした。
そんな折、ギター担当からこのDVDを見せられ
がーーーん
となりまして。
アーネルは当然のことながら、アメリカのロックバンドに
フィリピン人を迎えるという、おそらくほかのバンドではありえない起用。
JOURNEYというバンドのメンバーの心の深さを思い知らされました。
それからというもの、今までの仕事では味わったことがない感覚、もしかしたら中学生でバンドを始めたころのような、そんな感覚があふれてきています。
このDVDを観て改めて初心に帰った、そんな今日この頃です。
いい記事を有難うございました。

>HEYSKEさん

はじめまして。プロミュージシャンの方ですか。
当然音楽が好きでプロミュージシャンになられたんだと思いますが、きっと「仕事」として音楽に向き合っていると、そのうち初心を忘れてしまうこともあるんじゃないかと思います。

アーネル・ピネダの役回りは「スティーブ・ペリーのコピーを演じること」という、必ずしもクリエイティブとは言い難く、それでいてプレッシャーの大きい立場ですが、音楽に対する情熱という初心を忘れない限り、そういう環境でも輝けるということを実感させてくれる映画ですね。

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